新しい時代のとば口
「農業は儲からない」、「こんな苦労は息子たちには継がせたくない」というのが農業従事者の率直で痛切な声である。対して、(都会の)消費者は農産物の価格上昇に悲鳴を上げている。よく考えると、食料の殆どは工業製品となっていて、人々はそれらを食しているのである。一方で農業従事者は近年200万人以下に激減して、他方で世界的に慢性的な飢餓に直面している人々がいて、こども食堂やフードバンクなどに見られるような食料不安の只中にいる人々がいるのである。気候変動や食料問題よりも、戦争や争闘に明け暮れて軍需産業に依拠しているのが世界の首脳どもなのである。生身の人間を「人材」とし、食べものを儲けるための「商品」となった理由が近代の政治経済システム(資本主義=経済成長という名の下で金儲けが続く経済体制)であり(p5~6)、歴史を遡及して全面的に暴露した本が『食べものから学ぶ世界史』である。ジュニア向けの良書である。
資本主義は産業資本から金融資本に集中してマネーゲームと化している。市場主義経済は従来の共同体システムを破壊し続けている。さらに、情報化社会は、情報がカネとなって、M.フーコーが論及した監獄社会となっているのである(無料アプリの利用で個人情報が筒抜けとなっている)。
テレビのグルメ番組を眺めると、日本人の容貌が変化していることが分かる。高蛋白と油脂過剰と糖分過多のためにブクブクしている。ダイエット産業が繁昌する筈である。田舎の職業高校出身でまごまごしていた頃、有名高校出身者の容貌は、頭脳にエネルギーを消費している所為なのか、引き締まっているように感じたが、現在の大学生はどうなのだろうか。日本の政財界では、東大閥と慶大閥と早大閥が主流となって支配しているようだ。忖度という言葉は本来いい意味であったが、今では悪い意味での流行となっている。ジャニーズ問題もその一端である。副題の「人も自然も壊さない経済」(「命のための経済」p169)を望む人々(特にジュニア世代)は、この著書を読んで判断してもらいたいものである。我々は思考を取り戻して、新しい時代のとば口に立っていることを自覚しなければならないのである。
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