『超デジタル世界』の時代考察
1999年に、筑紫哲也の「ネット上の書き込みは便所の落書きに近い」という発言が物議を醸した。パソコン通信に続いて、2チャンネルが登場した当時である。今でも大概変化してはいない。罵詈雑言や犯罪の温床にもなっているのも事実である。昨年末ヤフーは、誹謗中傷やヘイトスピーチ防止のために、コメントに携帯番号の登録を必須化したのである。とは言え、ヤフコメは相変わらずの右ねじの人々の巣窟になっているのは否めない。戦争を煽り、現状追随のコメントばかりである。他方、2010年代からのDXやメタバースへの進展が活発になっている。AI(人工知能)だけでなくBT(生物工学)も加速している。そんな時代に適宜な出版がされた。『超デジタル世界』である。
先日の信濃毎日新聞(19日付7面)に、マイクロソフトが開発したAIの対話型検索サイトBingに、不都合な回答があったとの記事が掲載された。AIによって人間が「あなたはバカで頑固者」などと回答されたということである。人間を威嚇したり、偽言を弄したりしたそうである。現在は多少改良され、対話は1回当たり5問5答に制限されているとの報道である。AIの限界である。海外研究生活が多い西垣通は、「欧米では、超一流の秀才が少なからずトランス・ヒューマニズムに傾倒している」(p39)と洞見している。トランス・ヒューマニズムが、宗教的ミッションと結合しているとの彼の哲学・思想的洞察は、さすがという外はない(p139)。
21世紀がポスト・アメリカニズムの時代であるとの慧眼にも感嘆する。国際的対立と戦争は、ただプーチン・ロシアが悪くてウクライナが可哀想との単純な発想ではなく、「殺戮という行為を自分と結びつけてアウシュヴィッツのイメージをもつこと」(p48)が大事なのである。ドローンや無人機、更に殺人AI兵器の投入で、戦争と殺人の感覚がなくなる事態になっているのである。汎用AI万能論の思想の淵源だけではなく、マルクス・ガブリエルなどの哲学への言及と援用をしながらの卓見は、熟読に値する著述であると感嘆したことである。政治屋はおろか、日本の産官学のリーダーたちを「無邪気な少年少女」(p152)と批判していることに微苦笑したのである。日本の衰退を物語るのである。それは同時に、アメリカ帝国主義の転落を暗示しているのである。
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