防衛論議のアホらしさ
何で今頃になって、この新書が再刊されたのか分からない。戦記物として文庫から新書で再刊されるのは、稀有と言わねばならないだろう。いずれにせよ、以降再版されることはないと思われる。戦後77年も経過して人々の記憶は薄れ、防衛費倍増を岸田内閣はうちだして、早速財源問題に終始しているようである。政府は既にウクライナ戦争への賛意表明をして、戦争に加担しているのであるから、より一層の戦争構築への企図(戦争国家化)と断じなければならないだろう。尖閣諸島の領有問題を除けば、中国との政治・外交問題は、ほぼないのである。つまり、中国と戦争する必要性は全くないのである。台湾(帰属)の問題は中国人民の問題である。にも拘らず日本政府は、南西諸島の軍事基地化を推進して、結果として沖縄を戦場化する目論見である。対基地ミサイル先制攻撃の構想があるようだが、(国会審議もなく、憲法違反の)米国製ミサイルを導入しての閣議決定は、原発54基のあることから、一瞬によって日本列島が焦土と化すのは目に見えている(ウクライナ戦争以上に、悲惨を極めるだろう)。また、日中共同声明によって対日戦争賠償請求権を放棄した恩義もあるのである。さらに、米国も畏怖する軍事大国中国と戦争をして勝利できるとでも思っているのか。中国敵視の軍事力増強は、第二次日中戦争の契機ともなり、何ら権益に資するものではないのである。尤も、共産党主導による強権的な中国政府に賛同している訳でもないことは、言わずもがなである。
さて、『松本連隊の最後』である。歩兵150連隊の南方出征から敗戦までの記録であって、私見で断定しない、戦争賛美しないという著者の二大方針に従って、調査と聞き取りで構成された戦記である。それは戦争体験した作者にとって〈わが青春の墓標〉でもあった(p429~430)。概要は東洋経済ONLINEでも取り扱われている。要は、無謀な太平洋戦争の実相記録である。この本の解説者であって、実際に中国への従軍体験のある故・藤原彰氏が記述したように、「戦争が庶民にとって、名もなき兵士にとって、何であったかを正確に記録したものは多くはない」のであって、「犠牲者の大半が、戦闘行動による戦死ではなく、水死、病死、栄養失調死、餓死であったという事実」(以上p452、これとこれを参照。これも)を知らねばならないのである。だから、政府・防衛省や歴史修正主義者による防衛論議など、アホらしいのひと言である。パンドラの箱に唯一残っていた希望すら失ってしまうからである。
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