漬物についての誤解
先日、大学時代の友人と電話で野沢菜漬の話となり、野沢菜の約8割以上が長野県産ではないことに驚かれたのである。野沢菜は(信州の平地では)8月下旬か~9月初めの播種、11月下旬~12月初めの収穫が標準的である。それ以外の栽培は他県産となるのである。ところが他県産でも長野県の特産品(野沢菜漬)となり、伝統野菜となっているのである。冬季には観光客やスキー客に提供されて喜ばれているが(ほぼ地元産)、お土産品などの販売品が県産の野沢菜(地元では「お菜」もしくは「菜っ葉」、野沢菜漬けそのものは「お葉漬け」と呼んでいる)ではないことを大抵の信州人は知らないのである。また、信州人は長寿県として夙に有名になっているが、長年の減塩運動が普及して、各戸の野沢菜漬けという冬の風物詩は廃れて、スーパーでの購入となり、消費は減退しているのである。食生活の変化によって、やがて長寿県から漸次陥落してゆくと予想されるが、厚生連が主体となって地域医療体制が比較的整備されているために、沖縄県のように一気に陥落する事態にはならないのではないか。
さて漬物であるが、長年の消費低迷が続いているのであるが、コロナ禍において需要が上昇したそうである。めでたい話であるが、ここでは現代日本人の漬物に対する誤解について取り上げてみたい。一つは、日本人は漬物文化を知らないことである。漬物の味も漬物の意味も知らないのである。漬物は近年においてパック弁当の片隅に侘しく置かれた浅漬けが主流となっているが、元々、漬物は「香の物」または「お新香」と尊ばれ、立派な副食であり、伝統的な野菜加工品であり、発酵保存食品なのである(発酵でない漬物もある)。食の洋風化と和食離れに伴ってお米を食べなくなっていることも低下の要因となっている。つまり、全体的に和食文化は衰退して、辛み食品ブームがその象徴である(辛みは味覚ではない。肉食と油脂と糖分の過剰摂取と濃厚調味。これ参照)。もう一つの誤解は、漬物が医学や栄養学界から目の敵にされていることである。塩分を過剰摂取するとされているのである。しかしながら、これは大変な誤解である。新つけものにおいては、塩分は梅干しが10%ほどであるが(日本食品標準成分表によれば、塩漬けで4.4g、調味料漬けでは1.5gである)、漬物の大抵は2~3%であり、漬物からの塩分摂取量は、低塩化によって1日1gと少ないのである。また、味噌汁1杯の塩分量は1.2gで、「1日減塩梅干し1個と味噌汁1杯、麺類の汁は残して醤油やソースなどの調味料をかけない」であれば何ら問題がないのである。むしろ、その他の食品の塩分量を心配した方がいい位である。だから、漬物がやり玉に挙げられるのは不当と言わなければならないのである。自分でも梅干しやラッキョウ漬や野沢菜漬などを作って試食し、博識(?)と食に関する信条が生まれたのである(笑)。いけないのは、大臣や高級官僚の「接待漬け」なのである。
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