逝かれた人々
やっぱりな、と思うだけである。今年の4月23日、拉致問題の国民集会において、それが「内閣の最重要、最優先の課題」であり、「解決する」と決意表明しているのだが、これは全くの嘘である。もしそうなら、今頃は解決していることだろうし、況や、その発言が飛び出したのは、北朝鮮の核・ミサイルが「切迫」(政府広報)している時期の発言がために、「この人はやはり逝かれている」と思い至った次第である。また、その解決のために米国の協力と連携が必要であるとして、自ら積極的に先導しようという気概もないのは明々白々である。それだけではない。拉致被害者の家族がこの妄言に唯々諾々と付き合わされて、キリスト教と神道などの右派勢力である「救う会」に牛耳られているために拉致問題が一向に国民的な悲願とならないのだな、と彼らに同情の念を禁じ得ない。田原氏には「変なものを付けてるだけ」と揶揄される始末である。要するに、完全に政治的に利用されているのである。北朝鮮問題などと煽っているアベなのであるが、他方で、連休中に自ら率先して(閣僚の半分以上も右に倣い)外遊に興じ、ゴルフや飲食に耽って弛緩しているのであって、こんな内閣なら自分でもできるなあ、と呆れてしまう次第である。お粗末な政府である。国会議員や政党も然りである。さぞかし、アベ首相は稀有で、最も優秀な天才的大宰相であろう。それでもって戦犯である祖父の顰に倣って、憲法改悪を表明しているのである。呆れてものも言えないとは、このことを言うのである。夫婦揃って「神ってる」のだろう。やっぱり、逝かれたニッポン、である(自分が日本人であろうが、米国人であろうが、中国人であろうが、そんなことはどうでもいいことである)。
この本の著者もまた悲惨である。元々、この書の狙いが「人類が歩んだ旅路をなぞり、どのような経緯でここまで到達したのかを明らかにすること」(p11)であるのだが、科学力と創意工夫で食料生産力を向上させてきた歴史を振り返り、人類の過半以上が都市に集中した(2007年)21世紀の食糧問題は、問題なく解決していくだろうという安穏とした内容である。農業史としても俯瞰的に詳述されているので初心者にとっても分かりやすく修習できる。ラチェット(歯車)-ハチェット(手斧)-ピボット(方向転換)というキーワードを駆使しながら、人類は前進-破綻の危機-方向転換してゆくという進歩史観である。人類は「偉大な成果」(p243)を収め、「勝利を積み重ねて」(p246)、「大躍進の時期を迎えた」(p246)と賛辞を送っている。本当にそうなのだろうか。確かに著者は、一方で、「矛盾に満ちた豊かさ」(p257)と懸念も感じているのだが、他方で、この温暖化や生物多様性や持続可能性などの問題が山積しているにも拘らず、やがて方向転換して解決を見るだろうという見解に墜することは、火を見るよりも明らかだろう。分かりやすさが故に陳腐な見解に帰着するのは、英米の学者には特徴的なことである。
(追記-2017,5,10)
もう一つ。ブラジルの伐採された熱帯雨林の惨状に涙ぐんだ著者は、末尾において、こんなことを結論的に叙述している。「いまわたしたちは農耕をする種から都市生活をする種に変わろうとしている。少数が食料をつくり、大多数の人びとがそれを食べるという最新の取り組みは始まったばかりだ」と。「都市の暮らしも自然界とのかかわり合いなしに成り立たない」(p262)と言いつつも、帝国主義的な搾取や大地からの過剰な強奪、都市と地方の格差や南北間対立などに無関心を決め込み、その変容を無条件的に肯定する著者の近代人的な思考に、疑念と苛立ちを覚えるだけである。
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