宮本民俗学の私的評価
『忘れられた日本人』は既読であるが、もう一つ、網野の解説本を読んでみた。前者については、特段の感想は無い。宮本民俗学の前期の集大成であり、著名である。古文書解読と民衆からの聞き取り調査という方法論が窺えて興味深いのは言うまでもない。戦中のフィールドワークが、これ程になされたのは驚嘆するより他はない。しかしながら、網野が(慎重に指摘するように)、「宮本さんの民俗誌はあまりにもみごとすぎて、どこかつくられたところがあるのではないかという印象」を否定せず、「十分な資料批判をする必要はある」(p108~109)というのには妥当性がある。「土佐源氏」の文学的完成度を検討すれば、一目瞭然であろう。実際、これは乞食の話ではなく、馬喰のそれであることは証明されている。しかしながら、網野は、宮本民俗学が百姓=農民という定式(常識)に捉われていると彼らしく批判しながらも(p207)、下層に生きる人々を卑小に捉える近代歴史学の根本にある”進歩”に対する疑問を明確に提示して、日本民族の独自性と独立性を追及したと正当に評価している(p11、p127)と思う。後期宮本民俗学がどのようなものか無学であるが、山口県・周防大島出身の彼が、後々、「橋がかかったら島の人間はみな島から出ていきよる」と嘆息したということに例証されるのではないか。この問題は未だ解決を見ない。約一ヶ月後には北陸新幹線が開通する。ストロー現象はより巨大になる。新長野駅ビルもそれに併せて完成するが、暮れの忘年会の折に、駅構内を一瞥したところ、落胆したものである。改札口を東京資本の店舗で固めた愚劣な駅舎を作る気が知れない。愈々、都市と農村双方の自滅・劣化は止まらないものになってくるのは疑いがないだろう。
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