右傾化の代償
百年前の生活はどんなものだったのだろうか、という関心から読んだこの本。1900年(明治33年)から1907年(明治40年)頃、即ち、明治30年代の家庭生活を俯瞰するものである。この時期の国家的一大事件は、日露戦争(1904~1905)である。日本帝国主義の確立期でもあり、(寄生)地主制の確立期(小作地率45%)でもある。殖産興業と産業報国が唱道されて産業革命が進展し、綿(畑)から絹(養蚕)へ、行燈からランプへ、明治民法の施行によって家父長制度が浸透していった時代である。三大節を中心とする国家行事と天皇制教育を通じた学校制度の確立によって、人々の生活サイクルができ上がっていったのである。いわゆる近代化の過程である。何のことではない、現代を規定する要素が看取されるではないか。とはいえ、人々の生活は困苦を極め、from hand to mouth の生活をしていたのである。人口約4400万人の約7割弱は農林従事者であり(p189)、病苦を抱えながらエンゲル係数は60%を越していた(p86、p193など)のである。一方、学校教育の中では、児童の好きな教科がただ聴いているだけの「修身」(道徳)で、嫌いな教科が「唱歌」(音楽)であった(p239~243)のには失笑したことである。自分自身を省みても、道徳授業の「レ・ミゼラブル(ああ無情)」によって読書欲が駆り立てられて、その後の人格形成の萌芽となったのである。いずれにせよ、この時代以降、人々をなぎ倒しながら日本人は敗戦を迎えたのである。この代償を不問にして、現在、右傾化が進捗していると断定しても過言ではない。
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