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2012年4月 7日 (土)

ブチの昇天

000_0824  ブチが撥ねられているという知らせを聞くと、慌てて戸外に飛び出た。春雨が篠突く中、幹線道路を辿って捜し歩くと、縁石に横たわったブチの姿があった。濡れそぼったブチの身体は妙に重く感じた。まるで物体のようだった。首から顔面にかけてやられ、体毛はベタッとしていた。長い尾は無造作に伸びていた。長らく雨滴にさらされたのか、昼からの氷雨を浴び続けた様子だった。朝早く淡雪が舞っていたな。夕刻には春雷が空を鳴らしていたな。スコップを取り出して庭に墓穴を掘り、藁を敷いた。身体を丸くして遺体を置いた。春暖はもう少しだったのに・・・。軒下で、納屋で、縁の下で、瓦屋根の上で、ブチは懸命に冬の寒さを乗り切ってきたのに・・・。
 母猫が交通事故死した直後、三匹の仔猫が、積み上げたはぜ掛け棒の下から姿を覗かせた。ブチは他の仔猫よりも警戒心が強く、後方で身を潜めて、目立つことはなかった。二匹は人が攫っていった。ブチは孤独な野良猫の道を歩むしかなかった。ミルクをなめ続け、煮干しを齧り続けた。キャットフードをカリカリと噛み続けた。夏の暑さを日陰でしのぎ、雨の日は軒下に潜み、晴れの日はあちこちと駆け回った。日光浴のためにアスファルトにへたり込んでまどろむ姿もあった。歩くと先回りし、帰宅すると後追いして玄関口に座る。おもむろに草を食んだり、猫じゃらしを追い続けて遊んだこともあった。撫でると目を細めて喉を鳴らしたっけ。夏が来て秋が来た。冬の寒さに何処かで身を縮めて辛抱している姿を想像した。朝早く、玄関の扉の向こうにブチの声が響く冬の日々が続いた。あと少しだったのに・・・。
 ブチよ、お前は母親の運命を辿ったのか。背中にある黒と茶の斑の文様は、きっと父親と母親ゆずりだろう。お前と同じように、ずぶ濡れになりながら埋葬してあげた。サンシュユの枝を活け、餌を供えた。そして卒塔婆をその上に刺してあげた。さようなら、ブチ。お前のことは決して忘れないよ、生きた証しとして・・・。
 ブチの墓  2012年4月3日昇天  享年約10ヶ月 合掌

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