十五年戦争の原因
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』というタイトルであるが、「それでも」という言葉の含意する前提がよく分からない。普通のよき日本人であった筈であるが、であるのか、それとも政治・官僚・軍部指導部が世界最高の頭脳の持ち主であった筈であるが、であるのか、あるいは、過去の戦争経験からの教訓にも拘らず、なのかということである。また、何故侵略戦争を選択したのか、という問いの回答が判然としない。だから、あれもこれも事項や資料を詰め込む受験勉強の時の歴史学習のようで嫌な気分になっただけでなく、エリート高校生を前に、誘導尋問のように論を進めるやり方にも嫌悪感を覚える。回りくどい日本人学者の典型であり、さっさと結論と論証を明示する合理的な外国の学者を見習って欲しい。難しいのは、考証と解釈なのであって、後者の学者はそのことに注力する。文献蒐集と文献批判という困難な課題に傾倒するのが学者というものであるという信念だからである。国権論や帝国主義そのものに戦争の原因を見つけたり、近代戦が総力戦であることに言及しつつ、軍部の戦略的ミスを指摘したり、エリート官僚が戦争と自覚していなかったとしたり、吉田茂や松岡洋右を再評価するのはいただけない。ところで、この本では語られていない問題がある。それこそが問題であり、日本人が十五年戦争を選択したのである。嫌々侵略戦争をしたのではなく、むしろ積極的に日本人は侵略戦争を選択したのである。
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