医療再生のためには
青少年向けに執筆された本である。佐久総合病院に1、2章が割かれているが、近年杞憂されている医療崩壊は、正確には、地域医療崩壊と言うべきであろう。ために、佐久病院は再構築の試みが開始されたそうである。医療・福祉の分野は慢性的な人員不足であり、特に、医師獲得のために地方は呻吟している。この対策として、医師を呼び込む方策が講じられているが、私的には、だぶつくほど多量に医師を養成されてしかるべきである、と単純に思うのであるが、これには既存の医師(会)がこぞって反対するだろう。日本社会においては、既得権と慣習を破壊するためには想像以上の障壁があるのである。民主党政権が官僚機構にメスを入れることができるかは、ほとんど蟷螂の斧になる可能性が高い。専門医療と地域医療とを両立させることは容易なことではない。さらに、地方が疲弊しているのにその中で病院ばかり近代化しているのでは、何をか況やである。高齢化と産業の衰退は、ひしひしと蔓延しつつあるのである。したがって、医療にはメディコ・ポリス構想が不可欠なのである。医師養成に限れば(第3章)、医科大学・医学部の7、8割は都市出身の資産家の子弟である。はっきり言えば、今時、低所得者層の子供は医師にはなることができないのである。学生時代、医師の卵たちの飲み会に参加したことがあるが、こちらは千円のお金にも事欠く有様だったが、彼らは親名義のカードもしくは小切手払いである。他学部への関心もなければ、一般教養もない。また、医師自身が社会的経験もないし社会人からの入学もなく、風通しが悪い。一種の特権階層を形成しているのである。医師になる人の志向は、金か志かのどちらかである。地方の医療を崩壊させないためには、制度的な解決だけではなく、後者の、志のある医師を集結させるか、自前で養成するしかないのである(無論、志だけに依存することは、当該の医師を酷使・疲弊させるばかりであることは言うまでもない)。
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