自給をとりもどすこと
おそらく、基幹的農業従事者の平均年齢は、今年度は70歳前後になっているのではないか。75歳位で農作業をするのには無理が出るので、5年もしくは遅くとも10年後には日本の農業は壊滅的になると予想している。『農協の大罪』の著者・山下氏のように、グローバル経済に立ち向かえる強い農業を志向すべし、という主張は、机上の理論に過ぎない。一見グローバルな思考に見えるが、実は破滅的な理論である。グローバル経済が何の、誰のためなのかが分かっていないし、風土に根差す各国(日本)農業の実態が理解できていないし、農業を一面的にしか捉えていないからである。だから、食の安全問題や環境問題などには触れていない。むしろ、農業を机上から単純化することこそ、山下氏の大罪とも言わなければならないだろう(だからと言って、農協の肩を持つわけではない)。そうした論者は、食糧がなければ輸入すればいいのだ、と最後には必ず開き直るであろう。この本は青少年向けに日本の農業の現状と農史を概略的に説明し、もうひとつの農業を展望している。その中でのヒントは、「農業の近代化は、農民の仕事を奪い、自己決定の範囲をせばめてしまう過程であった。自給をとりもどすことは、近代化でやせ細った農業が全体性をとりもどし、農民が主体性をとりもどす道だ」(p64)という文言である。消費者も、安ければいいと考えずに(苦労して生産した農産物が、店頭販売価格の10分の1程度しか農民の手に残らないことを知っている人は少ないだろう)、農業に関心と関わりを持ち、自ら生産主体として自給してみてはどうだろうか。そうした契機と気づきは、全国各地に澎湃と湧き起こりつつある昨今である。
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