田舎暮らしの厳しさ
『田舎暮らしの本』という雑誌がその筋では知られている。「脱都会派の快適ライフスタイルマガジン」という位置付けである。かつては結構な値段であったが、今では安く購入できるようになった。自給自足だとかスローライフだとかペンション・ベーカリー経営だとか、定年後の無謀な田舎暮らし願望は、熱病としか思えない。だから、丸山健二氏はこのような輩に冷水を浴びせかける。田舎は「犯罪」の巣窟である、という章立てを読み進めたら、田舎暮らしを夢見る自分の愚かしさに気付くのではないか。そんな桃源郷など、この日本にある訳無いのである。『田舎暮らしができる人、できない人』という本では、農業的価値観=土地に根ざした、毎日の労働と生活から得られる実感をもつ覚悟を提示されているが、偏狭な郷土意識、理不尽な村組織と因習、粘着的な隣人関係、ルーティンな日々など、思いも寄らない暮らしが隠蔽されているのである。この本のタイトルは、そんな表層に有頂天になっている団塊世代に対する真っ向からの批判にもなっている。また、さまざまな世評批判も展開され、幻想としての田舎暮らしのイメージを破壊している。だが、田舎暮らしそのものを否定していると勘違いしてはならない。「現実の(おぞましさの)なかで喜びと感動とに巡り合えることが可能な田舎暮らし」(p180)のあることを逆説的に示唆しているのである。田舎暮らしは徹頭徹尾安直ではないのである。
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