認知症ケアの土台
最近思念するのは、技術では人の思いは感得されないが、技術でしか人に思いは伝わらない、ということである。それは、人生の意味の深遠性を意味するものであるのかも知れない。しかしながら、だからといって人がその意味を追求するのをやめることがない人間の性を指し示しているのかも知れない。ハイデッガー流に規定すれば、それは「現存在」の不安を抱えているのかも知れない。あるいは、人という文字が示しているように、人間の共同性や社会性を指示しているのかも知れない。恐らくは、両者を含意しているであろう。そして、必察ソーシャルワーカーとして現に活躍しておられる著者によるこの本は、そうした一面を垣間見せる内容になっている。認知症(痴呆)は病気である。しかし、それだけではない。認知症の人々は、どんどん失っていく現実を前にして、ひたすらに自分の思いを必死になって確保しようともがいている。否、そればかりではない。著者によれば、生活(いき)る意味を周囲に問う存在でもある。その思いを「必察」ケアとして提示しているのである。介護の専門性ということの内容にも、「介護する人とされる人という関係ではなく、互いに思いを察し合う人と人との関係へ」(p167、194、204など)というヒントを与えている。成功事例が多いが、著者は「必察」に答えはない(p106)と戒めてもいる。介護従事者が、介護の土台であるコミュニケーション技術を学ぶのに役立つ本であることは間違いない。
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