介護の時代
「介護者は考える杖である」(p30)ということが著者の信念である。あくまでも媒介者であり、脇役であるというのである。それが「最強の」という所以であろう。ともすれば、立派な施設や家庭的雰囲気を謳う老健施設が多いが、このことへの批判の書でもある。換言すれば、生活の主体は老人や障害者である、ということである。「牧人権力」(p166)を行使する行政や医療職・介護職がいかに多いことか。牧人権力とは、フーコーによれば、人々の健康と生命を守るためと称した管理と支配であり、権力の最終形態である。三好氏の主張には、若干矛盾する点もあるが、一貫しているのは、離床運動(機械浴批判も)を提起していることである。介護の仕事は、詰る所ウンコとシッコに関わることであるが、ここから介護が始まるのである。最も大切なコミュニケーションとは、尿意や便意という老人の体意に傾聴することであるという言葉は箴言である(p74)。もう一つこの本で学んだことは、「帰り道」の提唱である。人は必ず死ぬ。ところが医療は死を敗北とする。あるいは、死は医学の敗北と考える。老い(≒死)を内在化した社会や医療・介護を志向すべし、ということである(p79、162)。「母性」(p59、72)という概念は、今後の課題である。いずれにしても、介護の時代である現代には、刺激的書であることは間違いない。
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